目覚め





俺の頭は丁度弓親の胸の辺りにあった。目を瞑ると他の意識に掻き消される音が、目を開くだけで音が、弓親の心臓の音が俺の体に響く。 それは俺に

『生きている』

を証明した。



死ぬことに恐れはなかった。覚悟はできていた。――と、いうより生死に興味がなかった。
戦いのために生きている。その戦いで死んだとしても何を悔やみ、思い残すことがあるだろう。そして、誰がその死を悲しむだろう。


弓親が待っていた。
帰ってきた俺を見て泣きそうな顔をして、思った通りすぐに泣いて。涙を拭おうとした俺を他所に、弓親は手早く四番隊に救護を求めた。何名かの隊員が駆け付けた時には俺は意識を飛ばして二日間眠ったままだった、らしい。 そして様子見だと、もう一日四番隊に残り、部屋に帰ってきたのは先刻の出来事だった。 するとやはり弓親が待っていて、一緒に寝よう、と、そして同じ布団に入った。断るにも理由がなかったし、弓親の目の下には隈があった。俺が呑気に眠っていた間弓親は眠れなかったのだろうと想像できた。 また少しだけ泣いて

「心配したんだから」

と言われたときにはまだ痛む傷を忘れて思い切り弓親を抱き締めた。



細い腕が俺を抱いた。薄い体が俺を包んだ。俺より小さな体が、精一杯に足りないものを補うように俺の体を引き寄せる。綺麗な形の唇からは小さな寝息が聞こえているのに。

「…ごめんな」

とくとく、俺の心臓も音を立てている。決して急がず調子を刻む。
今日は眠ろう。明日目覚めたらまだ眠っているだろう弓親を布団に残したまま書類整理でも何でも代わりに引き受けよう。
そうしたら、きっと明日はこいつの笑顔を見られるだろうから。










何歳になっても、どんなに孤独を愛した人でもやっぱり心臓の音は落ち着く、というかなくてはいけない音だから 他人の心臓の音を聞けるのは幸せなことなんだろうと思う。
そんなこと語れるほどの歳じゃありませんが!

珍しく明るいというかハッピーエンド。

2009.8.9