不覚だった。
一角を庇って前に出たところまでは良かったのだ。
が、次の瞬間虚の二本の手から十本、いや、それ以上の触手のようなものが出てきた。 絡んでくるのかと思いきや、それは予想以上に硬く、僕の身体に突き刺さった。貫通した。溢れる鮮血が美しかった。
一角が僕を呼んでいる。返事が、出来ない。 虚は僕を刺したまま触手を振り、地面に叩き付けた。
一角が僕を呼んでいる。呼んでいるというよりは叫んでいるかな。 空に僕の血が舞う。椿の花びらが待っているようで美しかった。その中で振り回される僕もさぞや美しいことだろう。



そういえば、死ぬのが恐くなったのは一角に出会ってからだった。
初めての「友達」。生きることが好きになった。
毎日が幸せだった。

一角に出会ってから僕は弱くなった。
生きることに執着を持ってしまってからは、何をするにも一角から離れられなくて、ずっと、一緒だった。
独りが恐くて、いつだって一緒に居たかった。
この、戦い好きの十一番隊に入ってからも。死に一番近い場所だけれど一角は強くなった。僕も自分の戦い方を得た。
ずるい技。自分が勝つんじゃなくて、相手の「戦い」を奪う技だったけれど。



ずるりと触手から体が離れ、僕は地面に落ちた。
離れたのは一角が虚に斬りかかったからだった。虚の急所であろう、脳天に斬魄刀を突き立てられ虚は絶命した。
醜い声を上げて。
一角が僕のところへ駆けてきた。 僕の上半身を起こしたようだが、そういえば感覚が無い。 口からも血が出ているだろうが味が無い。血の匂いも感じない。きっと触覚と味覚と嗅覚は働いていない。働いているのは視覚と聴覚だけらしい。
でもこんな状態なのに脳内回路は正常に働いている。自分がもう死ぬであろう事も分かっている。
ああ、今すぐに最後の愛を伝えたいのに声が出ない。 段々と目の前が赤くなったり黒くなったりして意識が朦朧としてきた。でも苦しくはなかった。
一角を守って死ねるなら本望だから。 望みが叶ったのだ。 僕は決めていた。
僕の命を救った一角の命をいつか救えるようにと。

ああ、泣かないで。僕は今まで、そして今も幸せなのだから。
何が触れても感じない筈なのに、君の涙だけが焼けそうなくらい熱いんだ。
そして
僕は世界一美しい人の腕の中で死んだ。










不謹慎だと感じる方もいらっしゃるかと思いますが本編で一角か弓親の死が訪れないか期待、というか想像をしています。
勿論消えるのは耐え切れない事ではあるのですが帯人さんがどう相手を描くかが気になる。
昔から共に生きてきた只の「友人」だけでは表せない関係、一角の死を覚悟していたはずの弓親が対ポウ戦で取り乱した理由、だとか。



ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが前サイトから持ってきたものです。移転してもう一年ほど経ちますが。今更移動って←

2008.6.20