湯中り





あの時とは違った。
湯に浸る体を撫でる。腕も、脚も、少しずつ質量を増し、少しずつ骨張ってゆく 。掌も少し大きく、指も少し太く。体全体が厚みを増した。柔らかかった肌も、 少し、少し強くなった。何もかも、あの時とは違う。湯に揺蕩う(たゆたう)髪。そういえば髪も、伸びた。
花の香に包まれて目蓋を落とす。今でも鮮明に思い浮かぶ表情。圧力。あなたの 、体温。

愛しいと、抱かれたあの時とは違う。

もう一度触れることは僕にとって易しくない。君から、を待っているわけでもな い。どうしたらいいのか分からない。ただあの瞳に見つめられる事を望んでいる 。浅ましい。いやらしい。
君は、か細い体の僕が好きだった?

「…は……」

目の前がくらりと揺れる。こんな僕への罰なのか、とただ悲しくなって、湯に、 涙を落とした。










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2008.12.7